徒然なる宗教観16真言宗(密教)第4章・密教による世界人心の安定化の可能性

 最近の世界の情勢を鑑みるに、世界の人々がかってないほど不安定な状況に置かれ、このまま放置するととどめなく社会の崩壊に向かいそうな気配で何らかの対応が迫られているように思います。その原因は国家の評価が主に経済力、軍事力に傾き、その国の文化力や人間性の高さの評価が阻害されている事に原因があるように感じます。

 今我々は、ウクライナ、ミャンマーなどにおける非人道的な紛争や、地球温暖化、プラスチック公害、にさらされ、また政治的にも各国で不安定な権力争いに明け暮れ、その国における人々の心のよりどころが失われているように思えます。政治家は国民に物質的な豊かさを目標に掲げて、また国家としての戦力の強化が国民生活の安全を保障する唯一の方法であるかのように戦力強化を目指しています。

 その昔、我が国においては、聖徳太子が全国民の心のよりどころを仏教と定め、全国に国分寺を開き、人心の安定を図られました。つまり戦力や経済力の強化より人心のの安定を先行させたわけです。それにより”足るを知る”心のよりどころを広げ、貧しくとも心豊かな生活の心構えが植え付けられたと思います。日本が災害にあったとき人々がお互いに助け合い、略奪などが起こらないことに海外から驚嘆の声が上がるのも、基本的にはこの仏教の浸透に一因があるように思えます。

 この流れを受け、仏教が盛んになりましたが、仏教の解釈の違いから様々な宗派に分かれ、教義のむつかしさもあって、これをどのように統治しいくか問題になってきたので、何が本来正しいかを知るために、嵯峨天皇は当時もっとも優れていた僧侶と思われる最澄(伝道太子・比叡山)と空海(弘法大使・高野山)2名を中国に留学させ勉強をさせました。

 空海はインドに起こった密教に惹かれて、これを勉強するに適した高僧を探し、遂に恵果師を探し出した。体も衰えていた恵果は自分が修行してきたインドで起こった密教を自分の後を継いで完成することのできる人間を待ち望んでいたところに空海と出会い、一目で彼が後継者になれると直感し、彼にこれまで調べてきた資料すべてを託し、わずか半年の間に自分の研鑽してきたものすべてを空海に伝えたと言われます。

 こうして恵果は安心したせいか、空海に伝え終わると直に他界したといわれます。空海はこの種の留学は通常5・6年かかるところをわずか2年で帰国し、これら資料の目録を天皇に報告したと言われます。その結果嵯峨天皇からいろいろな宗派をどのように評価すべきかご下問があり、これにこたえて空海が著した論文が”十住心論”と名ずけられた、各宗派・大衆・動物を含めその哲学的深さからこれを分類したものです。

 この中でもちろん最高位の十番目に挙げたのが密教でした。空海は宗派間で争いが起きるのを避ける目的でどの宗派も否定せず、ただ哲学的思慮の深さで分類したものでありました。そのせいかこの分類にたいして、他の宗派から大きな反対は起こっていなかったようです。

 密教がほかの宗派と異なる最も大きな点は、人間の感覚的なものを重視している点で、他の宗派では論理的な説明にとどまっていることです。これを”顕教”とよび、密教とは差別しています。この為、密教の修行には感覚を研ぎ澄ましていく必要があると思います。現代の人間は見かけ上、科学技術の発展や、情報産業の興隆によって、あたかも昔より高度な人間になっているような錯覚がありますが、逆にこれにより、思考レベルが下がり、洞察力が浅薄になっているように思います。

 例えば、アフリカのある狩猟民族は、獲物を銛で打つため、視力が文明社会に住む人間より数倍高いと言われるように、洞察力も多分8世紀ごろの優れた人間は今の社会に生きる人に比べ数倍の洞察力を有していたと想像されます。この高い洞察力により、自分の中の心の動きや環境の変化による体の変化など、極めて精緻な観測を行っていたと考えられます。空海は極めて優れた洞察力を有していたと思われます。

 密教の文献を読み進めると、その洞察結果が、現代の分子生物学的解釈や、場合により量子力学的解釈に出会い驚かされる場合があります。現代科学ではまだ医学や生物学に量子力学が導入されていません。人体の中の情報伝達手段としては化学物質(ホルモン)と電気信号が確認されていますが、量子力学的信号である電子伝導はまだ確認されていません。つまり空海の洞察力は結果として量子力学的現象を見抜いているように思われます。現代科学がこれから向かうところを感覚的に見抜いていたように感じます。

 しかし、空海が密教を確立した8世紀には、まだ地球が丸いことも太陽の周りをまわっていることも知らなかった時代です。まして、科学技術、情報技術など知る由もない時代です。従って空海の洞察力によって完成した密教を、現代の科学技術の知見を導入して、現代に合うよう検証しながら、現代に通じる密教を構築しなおすことが重要だと考えます。
 
 密教はインドで生まれ中国で育ち日本で完成した世界の最も高度な宗教哲学だと思います。従ってインド・中国・日本の密教代表者が協力して、分子生物学者、量子力学研究者を交え新たな世界共通の十住心論をキリスト教、イスラム教ユダヤ教その他に対象を広げ新たな密教を開き、世界の人心に安定をもたらすことが求められます。しかし一方でその高度な哲学は容易に理解することはできませんのでよほど選ばれた人々によって研究が進められることを期待したいと思います。

 この活動は、政府・行政関係者は活動の経済的支援にとどめ、密教の関係者(インド・中国・日本)科学者による自主運営が望ましいと思います。ある程度完成後、仏教を基本としたマインドフルネス瞑想が広がる欧米にも浸透させ、世界の人々に新たな心のよりどころと、価値判断の基準を作ることが、世界の平和に期するところが大きいと思います。

 キリスト教の高僧も仏教の意義を認めている方もいますが、それでも仏教はキリスト教の一部として包含されるという見方をしていますので新たな十住心論の構築は容易ではないと思いますが、科学的手法が導入されれば時間をかけて理解が得られると考えます。

 武器や経済力でなく心のよりどころに世界の人の共通の基盤を作ることが、豊かな地球を作る前提となります。



 


同じカテゴリー(非可聴音とは)の記事

この記事へのコメント
密教は、言葉としてしか知らず、漢字「密」を含むので勝手なイメージが出来上がっていました。こちらを拝読させて頂き、密教のイメージが変わりました。勉強になります。ありがとうございます。
Posted by のののののの at 2022年10月03日 12:10
野澤さん、コメントありがとうございました。私も野沢さんと似たような密教に対する印象でした。唯一”即身成仏”ということが頭に残っていて、私の性に合うかと、少し勉強中です。c
Posted by ひでおさんひでおさん at 2022年10月03日 16:28
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

写真一覧をみる

削除
徒然なる宗教観16真言宗(密教)第4章・密教による世界人心の安定化の可能性
    コメント(2)