日本の半導体再生の道筋

現在、半導体産業の再生については様々な対策が進められています。その一つとしてラピダスというプロジェクトがありますが、これは台湾のTSMCに対抗する高精度ロジックの実現をアメリカと組んで、生産を日本で立ち上げようとするプロジェクトです。これに対して本提案はこれと競合するものでなく、逆に相補完して、インテリジェントセンサーとして日本独自の半導体分野を切り開いていく具体的道筋を述べたものです。

日本の半導体技術再生への道筋提案骨子提案

一般財団法人 遠州の知恵袋
代表幹事     晝馬日出男


目的

本提案は我が国が半導体製造技術において、台湾・韓国企業に大きく後れを取り、また生産量においても中国企業に圧倒されている現状から、再び我が国が国際的にみて、半導体技術の中核をなすための今後の進め方について提案をするものである。



2.半導体産業の現状

  半導体産業は、その製品として圧倒的に多いのは、①プロセッサー②メモリー③SOC(システム オン チップ)が中心となり、①は米国②③は台湾、中国、韓国がその生産量において圧倒している。

 一方、我が国においてはCMOSイメージセンサー(ソニー)フラッシュメモリー(キオックシア・旧東芝四日市)、自動車用半導体(ルネサンス)などが健闘しており、一つの希望を与えるものである。

 注目すべきは、上述のCMOSイメージセンサーもフレッシュメモリーも所謂“半導体多層構造(三次元)”をなしており、これが強みとなってほぼ世界市場を席巻している。



3.3次元化によるセンサー産業の高度化が国際競争力をさらに強化する。

人間の五感(視覚、聴覚,嗅覚、味覚、触覚)に相当またはそれを凌駕する性能を持つ諸センサー類は、今後ロボットの高精度化、自動車の自動運転、スマホ機能の高度化、製造業の在宅勤務化(筋電センサー)、宇宙防衛上の超高速兵器の検出(赤外センサー)、などの用途に用いられる可能性が高い。超小型化インテリジェントセンサーの開発は、我が国のセンサーメーカーを強固にし、世界的なインテリジェントセンサーの供給基地としての役割を担いうる素地を持っている。センサーメーカーでも一部のベンチャーが挑戦しているに過ぎない。



4.何故3次元化したセンサーの競争力を我が国とって強く出来るか。

① センサーは基本的には物性技術であり、我が国は、これらの素材技術の高度な蓄積を有し、韓国、台湾、中国に対し優位性がある。我が国のセンサーメーカーは、今後これら出力信号(アナログ)をディジタル信号に変換し特化されたアルゴリズムの開発を合わせて行えば世界的に強い競争力を維持発展できる分野である。







②上記アルゴリズに基づき開発されたソフトウエアはこの3次元構造の半導体技術によりファームウエア化することが可能である。これによって内容の秘匿性が高めることが出き、他者によるコピーや模造品の発生を妨げる効果が大きいと思われる。

③日本はいわゆる(ガラケー)、ガラパゴス的思考であるといわれ、これは全く新しいものを生み出す素地より、改良進歩させることが得意と解釈される。これは欠点ではなく日本人の属性とおもえば、この能力を生かし、不断の改良を続け、世界における高い技術レベルと独占的市場を維持できる可能性が高い。





5.これらを支える3次元構造の半導体技術とは何か

基本的には次の3層からなる。

① 外部信号を受け特定素材を用いたセンサーがこれを検出し、電気信号(原則としてアナログ信号)に変換される。

② この信号を適切に処理するASIC・ LSIに伝えるための3次元配線をSiウエハー内部に制作される。TSV(Through Silicon Via)技術と呼ばれる、言わば多層プリント基板の機能を半導体基板内部に構成させ超小型化し、処理回路のASIC Chipと同じサイズに加工が可能なため、イメージセンサーの場合等はタイリング技術と呼ばれる、隙間なくイメージセンサー基盤が処理回路を含めて多数のセンサーを密接に配列可能となり 超高解像度が実現される。

⓷ ASIC(用途により特化されたディジタル信号処理チップ)の製作は、台湾、TSMCが世界最大のシェアをもち、この部分はこれらファンドリーに外注となる。



6.実行組織

Si基板上での3次元構造の開発はこの4半世紀を通じて東北大学において小柳正光正教授を中心に進められている。現在は東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)において、三次元スーパーチップ試作製造拠点の拠点(GINTI)リーダーとして活動されている。したがって当然ここを中心に今後の活動を進めていくのが妥当であると考える。またこの技術をもととしたTSV基板の実用化を目指すベンチャー企業、東北マイクロテック社が活動をしている。

 一方静岡大学工学部電子工学研究所は、日本でのテレビの開発者として有名な高柳健次郎氏により創立された電子工学研究所おいて、研究所長三村英典教授を中心に半導体イメージセンサーの開発が行われ、現在超高感度のX線イメージセンサーの開発が行われ、この技術をもとに大学ベンチャーANSeeN株式会社が立ち上がっている。



 





 またこれら静大ベンチャーの支援組織として、民間の協力者と共に産学協同組織として一般社団法人“遠州の知恵袋”が活動をし、ベンチャーが製品開発後遭遇する、いわゆる“Deth Valley”と呼ばれ、製品はできても販路、生産能力の欠如という大学ベンチャーが持つ壁を乗り越えるための支援として、地元企業が協力をして開発された技術の商品化、応用の開発を行っている。

大学で開発されたものは、技術的には高いレベルのものが多い が、逆にそのことが、新規性なるがゆえに市場形成に時間がかかり、また技術の応用面での情報取得が大学ベンチャーだけでは、市場との接触が少ないため困難である。

このような現状を打開するために7年前、晝馬日出男氏(ロンドン大学名誉フェロー・元浜松ホトニクス常務取締役)により提唱され、三村秀典教授を理事長に、晝馬日出男が代表幹事として運営されている。上述のANSeeN株式会社もこのメンバーである。



以上の3組織が協力をして、新しく3次元構造のインテリジェントセンサーを国内センサーと共に国の支援を受けながら自立的に新商品を作る体制の確立が我が国半導体の再出発のキーポイントとなることを確信します。



7.具体的推進計画

これから、3次元スーパーチップを大学の研究室だけの開発をとどめず、中小企業を含め技術移転を行っていくためには、単に技術論文資料・設備の公開だけではこのようなデリケートで複雑な工程は民間に移転することは困難である。特に中小企業の場合は上述のASICの開発にかかわる費用(平均1億円)負担が大きく国からの補助金が必要である。そこで東北大学未来技術研究センターの3次元スーパーチップLSIs試作製造拠点附属の“民間技術移転センター”とも言うべき、大規模な実働工場を稼働させ、民間企業から派遣された技術者のトレーニング、少量生産の受託、生産設備・ラインの貸し出し、大企業向け生産設備の設計・稼働の支援、など企業規模による多様な方式による技術移転ができることが望ましい。



8. 具体的ビジネスモデル

具体的には、全国の顧客(センサーメーカー)とのアクセスと地価の比較的安価と思われる仙台空港周辺に約1万坪の土地を確保し、対津波を考えピロティ構造の工場(一階は駐車場、2階が無塵工場、3階が事務所)を4棟建設し、一棟に2ラインの半導体加工ラインを設ける。これを生産用ラインと、技術供与ラインに使い分ける。2棟目は次世代ラインの立ち上げ、3棟目は次々世代基盤技術の試作、4棟目はASIC設計に使用する。これはすべて国費で建設され、建築設計は東北大学と東北マイクロテックが引き受ける。これらの建設費として土地取得費を含め300億円程度の国費(5年計画)を投入してもらう。







これらの施設の運用管理は東北マイクロテックが引き受ける。これらの施設の50%を東北マイクロテックの事業用に使用することができる。これらの組織間のコーディネーションとして既存の一般社団法人演州の知恵袋を全国を対象とする組織に改め、全国の大学にある個別の完成された技術を次期半導体生産に活用できる、新技術交流ネットワークを構築し、特徴ある生産体制確立と新技術の不断の開発を目指す。



この推進により日本が再び技術立国となる起爆装置とする。その波及効果はロボットの高度化、医療、バイオの面で20兆円規模の新産業を創出する。



9.本案件に関する関係者の意見

① 小柳光正(東北大学シニアリサーチフェロー)

今後日本の半導体が取るべき道を明確に呈示した重要な提案かと思います。私

としても全面的に賛同させて頂きます。今後ともこの提案を具体的な動きにつな

げていくことが重要になってくるかと思います。微力ながら、ご協力させて頂き

たくよろしくお願い致します。



② 三村秀典(静岡大学電子工学研究所 所長)

日本のセンサー技術は、現在でも世界最高の技術を有しており、これと、今後発展するであろう3次元LSIチップとの融合は、世界最高水準のインテリジェント化センサーを生み出す可能性が高いと思われ、巨大産業を生む可能性があります。是非このプロジェクトの推進を期待します。



⓷ 青木 徹(静岡大学工学部機構長)

センサーのインテリジェント化は情報処理技術の導入により、入力信号のアルゴリズムを強化し、これをファームウエア化して3次元LSIに組み込むことによりその秘匿性が高まれば、技術流失の可能性が抑えられ、高度なセンサー技術を、日本の特技とすることが可能になり、我々の経験を生かして協力できる。



④ 小池昭史(静大ベンチャー ANSeeN((株)代表取締役)

東北マイクロテック社とは、すでに、協力関係が始まっており、当社のX線ホトンカウティング(光子計測型)画像計測に応用が始まっています。今後更なる発展のために

将来に向けた開発体制が充実することは、極めて重要です。





⑤ 吉本真 (東北大学ベンチャー 東北マイクロテック社長)

晝馬さん、小柳さんの提案のように、強くなれるところから始め、他社に先駆けて高い技術レベルを培い、これを梃に半導体製造業を強くしていくのが第一です。





10.予算の概算

投資金額300億円の内訳概算(5年間)

① 初年度

用地取得費            20億円(30000平方メートル)

建屋・設備設計調査費        5億円

② 2年度

第1期建物(工場及び管理棟)   20億円(5000平方メートル)

第1期設備費(2系列)      50億円

⓷ 3年度

第2期建物(次世代ライン用)   15億円(4500平方メートル)

第2期設備計画(次世代型2系列) 75億円

④4年度

第3期建物(次期生産用機器開発) 20億円(4500平方メートル)

次世代設備開発          50億円

⑤ 5年度

9 第4期建物(ASIC設計)     15億円(4500平方メートル)

10. 第4期設備ツール(ソフト込み) 30億円

 




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